アオビル - 蒼星食堂 / キチ・アーキ

場所:奈良市

用途:店舗, 事務所

規模:63㎡

竣工:2025.09

キチ・アーキが手がけたコーヒーと観葉植物のお店「キチ」から徒歩1分、近鉄学園前駅から徒歩圏内の場所に、地元の人に「蒼池」と呼ばれ親しまれている池がある。奈良時代からため池として利用されていたが、宅地開発により雨水を一次貯留する調整池として現在も残る。

蒼池の縁にしがみつくように建つ、まるで要塞のような風景の小さなビルが長年空き家となっていた。元たこ焼き屋さんとして繰り返し増築された跡が随所に残る、三角形の2階建てビルをリノベーション。

設計事務所をつくる上で一つ達成したい目標があった。

それは街の人々が親しみやすく気軽に相談できる設計事務所になること。

設計事務所に依頼することが特別な出来事ではなく、建築家を身近な存在に感じてほしいと長年願っている。設計事務所を訪れることはほとんどの方にとって敷居が高く、なかなか機会に巡り会えないだろう。しかし「飲食業」であれば食事を通してより多くの人が集まる場になりうることに加えて、自身のデザイン空間で過ごす人々の温度感も感じやすいと考えた。

同じ屋根のもと別業種同士が商いするというスモールミックスビル構想を企て、料理人である同窓の友人に、自身の独立と併せて共に開業する相談を持ちかけたところ、快諾してくれた。ここからアオビルは動き出した。

物件を取得してから10ヶ月後の2025年9月、僕たちはこの小さな建物から大きな船出を切った。

古くから人々の記憶に残る蒼池に敬意を表し、築50年越えの建物を「アオビル」と名付けた。

元たこ焼き屋「はっちゃん」の入口を飲食店「蒼星食堂」、勝手口を設計事務所「キチ・アーキ」の出入口に置き換えて暖簾を掛けた。(暖簾デザインはfabricscape)

たこ焼き屋のテイクアウト用だった二つの窓は、一つを飲食店と街を繋ぐコミュニケーションウィンドウとして、もう一つを街に情報発信するショーウィンドウとして活用。

夕暮れ時に浮かぶビルのアイコン「アオビルマン」

既存袖看板のアルミフレームを再利用しスケルトンとなった内部に青色ネオン管でアオビルマンを浮かべた。(ネオンサイン製作はマヴァリック)

蒼池の縁に建つアオビル。屋上へと続く階段と増改築により残されたトマソン階段がこのビルの目印。

「蒼星食堂」

アオビル1階、学園前の路地裏に佇むお酒と和ごはんのお店。

料理一筋で長年研鑽を積んできた設計者の友人のための和食ダイニング。

元々あった店舗の骨格を活かしながら建築素材と光を再整理することで、提供されるお料理や器に合った色気と落ち着きを併せ持つインテリアデザインを目指した。

全体的には和の雰囲気を保ちながら、その中にアオ(蒼、青)をテーマカラーとして取り込むことで蒼池とのストーリーを紡いだ。

客席を観客席、厨房を舞台に見立て、厨房に向かって壁から天井まで包み込む緩くカーブした波板によって客席側の厨房への意識を高め、空間に一体感をもたらすことで、日々丁寧な調理と接客をこなす店主の人柄をより多くのお客さまに届けたいと思った。

開業前から店主が拘ったお店の名物メニュー“ひとつの釜の白ごはん”。

毎晩20時半に大きな土釜から取り分けられるツヤツヤの白ごはんに、観客全員が舌鼓を打ち“同じ釜の飯”を共有する。

この観客と舞台とが一つになる瞬間こそがこのお店の最高の体験といえる。

台下冷蔵庫が納まっていたスペースは蒼池が望める対面型客席にリノベーションし、ブルートレインシートと名付けた。

物置内部に貼られていた既存の青色タイル。通路のインテリアに少しだけ参加するよう建具の足元にスリット窓を設けた。

洋式化したトイレは既存の黄色タイルと半円形のダクトを足がかりに再編。

「キチ・アーキ 建築設計事務所」

アオビル2階、路地裏から生まれるクリエーション。

街や人々の生活の延長線上にある親しみやすい設計事務所をつくりたいと以前から思っていた。

早朝、出勤すると1階の食堂店主がカウンターで今日の料理の段取りを思考している。

正午、昼食から戻るとお気に入りの懐メロをBGMに仕込みをする店主と挨拶。

夕方、業務に没頭していると楽しい会話と美味しそうな匂いが1階からたちのぼる。

時々1階からお客様と店主がお店の内装のことなど興味深く会話している声が聞こえ2階に説明のお呼びが掛かることもあれば、お手洗いついでに2階はどんな場所なのかと階段を上がって来られる方もいる。

このような人との自然なつながりやコミュニケーションがアオビルには確かにある。

事務所の内装に求めたものは、図面やパースを自由に貼り剥がしできる木壁と大量の書類・サンプルを保管できる棚、そして座ったり立ったり気分転換しながら仕事ができる作業台である。

既存天井を剥がした時に現れた錆止め塗装の赤色に染まった天井裏をそのまま活かして空間気積を最大限に確保し、残りを全て構造用合板による造作工事で仕上げた。

執務エリアは上履きにしたいと考えていたため、合板でできた床・壁を白塗装で塗り分けて靴脱ぎラインを明示。このようにしてできた赤い天井に合板素地と白塗装を合わせた質素でシンプルなインテリアの中に、空間と呼応するよう銅と白の2トーンで構成されたfabricscapeによるカーテンが吊るされ、蒼池から得られる光と風を空間全体で体感できる事務所が完成した。

銅箔と白とで構成されたfabricscapeによるデザインカーテン。パンチング加工が施されており光の透過と反射が空間に奥行と幻想を生む。

白塗装で塗り分けられた下足と上履きの境界線。塗装はアオビルメンバーでDIY。

内装壁を既存アルミサッシに被せ障子を隠すことで蒼池の景観を切り取り小物が置ける小さな窓台を設けた。

階段室には2024年「キチ」で開催されたアーティストthetaの個展の際に制作されたアートボードを迎えた。

事務所へと続く互い違い階段

蒼星食堂お品書きの印刷依頼が階下から毎日届く。このような関係性も事務所の財産だ。

Photo by Megumi Takimagari

設計監理:キチ・アーキ
施工:中嶋工務店
カーテン・暖簾デザイン:fabricscape
照明計画:DAIKO TACT(國分 頼明)
ネオン管サイン製作:マヴァリック
ドアハンドル:ユニオン

Before / After

ファサードBefore/After。10年ほど使われなくなっていた建物は蒼池からの蔦で外壁の半分以上が覆われていた。

1階店舗Before/After。昭和の食堂の雰囲気がそのまま残る既存店舗。空間構成と素材、光を再整理して和食ダイニングとして蘇らせた。

2階事務所Before/After。昭和の量産材料で覆われていた化粧を剥がして鉄骨躯体を生かしたインテリアに再編。

共用トイレBefore/After。既存の黄色タイルと半円形の厨房ダクトを足がかりとして洋式便所に改修。

物置Before/After。入口扉の足元に小さなスリットを設けて内部に張ってあった青色タイルを通路部分の景色に参加。

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